素直になれない夏の終わり


「……“美味しいイタリアン”って、自分で美味しいって言っちゃうところ、怪しさ全開じゃない?」

「そこはオーナーのセンスの問題だよね。俺も、もう少しなんとかならなかったのかとは思うよ」


そう言って苦笑した津田は先に立ってドアを開け、恭しく夏歩に入店を促す。


「……なんのつもり」

「レディーファーストは紳士の基本でしょ?」

「誰が紳士だ」


こんな怪しげなお店に先に入らせられても……と大変失礼なことを考えながら、おっかなびっくり店内に足を踏み入れた夏歩は、思わず入口の前で足を止めた。

実は入店する直前まで、先ほど通り過ぎてきたファミリーレストランが頭に浮かんでいて、あそこならば安心安全で味も間違いないから、どうにか戻る方法はないかと考えていたのだが、それが一気にどこかに飛んでいった。

まず迎えてくれたのは、チリリンと可愛らしいベルの音。

壁はクリーム色で、角が取れて丸みを帯びたデザインになっている木製のテーブルと椅子はどちらも焦げ茶色。天井に吊り下がったアンティーク調の照明が、明るすぎない柔らかい光でそれらを照らしている。