「なんで受け取らないのよ!」

「それはさっきも説明したでしょ。全部俺が好きでやってるの。好きなもの買ってきて、好きなもの作って、それをなっちゃんと一緒に食べてるだけ。だからなっちゃんは、変なこと気にしなくていいの」


夏歩がお札に手を乗せるより先に、津田は夏歩の前にあったマグカップを掴んでそれを上に置いてしまう。


「お金のことを気にするくらいだったら、たまには美味しいって言ってよ。食べっぷりがいいから言わなくてもわかるけど、それでもなっちゃんの口から美味しいって聞きたい」


視界に入らないようにわざと脇に寄せておいたマグカップが目の前に置かれて、立ち上る湯気から香るココアがどうしようもなく夏歩を誘惑する。

結局未だに取り返せない鍵と同じ、ここぞというところで、夏歩は津田に勝てない。


「今日のご飯、美味しかった?」


マグカップに手を伸ばす夏歩を見つめながら、津田がヘラっと笑って問いかける。

反対に夏歩はムスっと不機嫌そうな顔でココアをちびっと口に含み、その美味しさを、大好きな濃い甘さを味わったところで、津田の方を見ないようにして呟くように答えた。


「……悪くは、なかった」


それが、今の夏歩の精一杯。
そっか、と返した津田は、ちょっぴり物足りなさそうで、でも嬉しそうだった。