最寄りの駅に着いたのは18時15分。
時刻表を見ると、8分の次は・・・26分・・・。
30分に間に合うわけない・・・。

沙和は8分の電車に乗ったようだ。
改札を抜けてホームに出ても、沙和の姿はどこにも見当たらない。
ダメだ。
ダメだ。
間に合わない。

26分発の電車に乗ると、40分前にしか着かない。

ため息がどうしようもなく出てくる。

ダメだ俺。

田尻に沙和を取られたら、俺もうどこでご飯食えばいいんだよ。

沙和がいないんじゃ、美味しい定食も楽しめねえよ。

26分発の電車がホームにやっと入ってきた。
花火大会に行く奴らで信じられないほどの混み方だ。

ドアが開くと、無理やり自分の体を押し込む。

俺、もし沙和に会えなかったら、何しに行くんだろ。

でもおとなしく店で飯食うなんてできなかった。
花火の音でも聞こえたら、心臓が破れそうだ。
そんなの耐えられない。

電車が動き出す。

楽しそうな恋人たちばっかりだ。

ダメだ、何やってるんだろう、俺。

「花火大会、俺と見てほしい」

そんなこと言えるのか?
それでも田尻を選ぶんじゃないのか?

次の駅に止まると、またドッと人が乗り込んできた。
車両の奥の方へ押される。

もう、どうでもいい。

踏んだり蹴ったりだな。

俺も手を繋いだりしたい。
沙和と一緒にいたい。

沙和と一緒に花火が観たい。

駅に到着すると、一気に人が流れ出すように降りて行く。

エスカレーターも階段もギュウギュウだ。

そんな俺も後ろから押されるように流される。

こんなんで沙和を探すことなんてできるのか?

でも待ち合わせ場所は大体決まってる。

改札出て左側にある少年少女の像だ。
とりあえずそこを見てみよう。

階段を流されるように登る。
改札前まで来ると、やっと見通しが良くなった。

案の定、少年少女の像前はいつもの10倍くらい混んでいる。

そこに沙和の姿が・・・あった。

俺は急いで見失わないように改札を抜ける。

沙和が歩き出した。

まずい。

「沙和!」