大和撫子物語

「その人の名前は、城之内時雨(じょうのうちしぐれ)。B組の生徒で、図書委員に入ってるよ。部活は剣道部だね」

蛍が男子生徒のことを教える。エレナは「時雨……」と呟き、胸に手を当てる。助けてもらってから随分時間は経っているのに、まだ胸はドキドキしたままだった。

「でも、彼は良家のご子息よ。両親もとても厳しいんですって!おまけに、彼の好きなタイプは…大和撫子なんですって」

結衣がそう言うと、エレナは初めて聞いた言葉に首を傾げる。結衣が説明してくれた。

「清楚で控えめ、そして奥ゆかしい女性のことよ」

清楚で控えめ、そして奥ゆかしい……。エレナは何度も呟く。今のエレナは全く彼のタイプではない。

「決めたわ!!」

エレナは勢いよく立ち上がり、蛍と結衣を見つめる。

「私、時雨に相応しい女性になる!大和撫子になってみせるわ!だから、協力してほしいの!!」

エレナは真剣な目で二人を見つめる。ウクライナに長くいたため、大和撫子のことはよくわからない。二人は優しく微笑んだ。