「危ない!!」

エレナが歩いていると、男子たちが叫んだ。エレナが声のした方を見ると、エレナに向かってボールがまっすぐ飛んでくる。

「えっ……」

突然のことにエレナの体は固まり、動けない。その刹那、誰かにエレナは腕を引っ張られた。ギュッとエレナは目を閉じる。上品なお香の香りがふわりとエレナを包む。

「……大丈夫ですか?」

エレナがそっと顔を上げると、エレナより数センチ背の高い男子生徒がいた。エレナにはない黒い髪と目。それはまるで、烏のようだ。

「はい、大丈夫……です……」

男子生徒に優しく声をかけられ、エレナはドキドキしながら答える。自然と敬語が口から出ていた。

「それはよかったです。女性が顔に怪我をしてはいけませんから」

男子生徒はそう言い、エレナを離す。初めてエレナは、自分が男子生徒に抱きしめられていたのだと気づいた。気づいた刹那、一気に恥ずかしさが襲ってくる。

「では、私はこれで。失礼します」