堕ちませんよ!!
堕ちる訳ないじゃないですか……。
声を大にして言いたかったけど、言えるわけがない。
だって佐伯主任と私の関係は秘密なんだから。

「男だったら誰だって、夕梨みたいな女を放っておく訳がない。俺も佐伯もそうだ。あの時だって本当は佐伯も夕梨を手離したくなかったはずだけど、夕梨は俺と離れられずにいたからな。俺だって離すつもりなかったし。今はあの時とは違う。障害が無くなれば自然とくっつくだろう。夕梨を佐伯にやるのは惜しい気もするが、俺は今更離婚する訳にいかないから……」

あ、そうだった。
携帯の存在を忘れてしまっていた。

「課長、この資料室が密会スポットだってこと、社員にはどれくらい知られているんですか?このドアが開かないのももしかして……わざとなんですか」

私と小久保課長が資料室に居るってこと。
そしてドアが開かず閉じ込められた状態だってこと。

伝わった……?
もうちょっとの我慢。
きっと彼ならなんとかしてくれるはずだから。


──約10分後。

ガチャ、ガチャガチャ。
誰か来た!
空回りするノブの音が何度か響き、その扉は静かに開かれた。

「おわっ!なんだ……蘭さん?」

「……宮本課長!」

イチにぃ。
佐伯主任から聞いて来てくれたの?

「へえ……。愛人の危機に颯爽と駆けつけたって訳だ。じゃ、邪魔者の俺は退散するよ。ああ蘭さん、暫く戻らなくても大丈夫だよ。誰かに聞かれたら適当に誤魔化しておくから。じゃ」

そう言い捨てると、小久保課長は一瞬だけ宮本課長を睨んで去っていった。

「まひろ、社員からこの資料室のことをどう思われているか知ってるのか?」

「さっき、小久保課長から聞きました。"密会スポット"らしいですね。違いますよ、私たちは密会していた訳では!」

呆れたように私を見て、イチにぃは溜め息を吐いた。

「翔は今、外勤に出てる。慌てた様子で電話かけてきた。とにかく早く資料室に行けって。連絡しとけよ」

それだけ言うと、足早に立ち去ろうと背中を向けたイチにぃ。

「あ、待ってイチにぃ!ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「時間がない。また今度な」