え、奥さんって、高柳さんの友達だったの?

「だから、似てるって言ってたんですか?高柳さんとは結婚する前から付き合ってたんですよね。それなのに友達と結婚なんて酷すぎる」

「君だってそうなんだろ?親類って言ったけどいとこ同士ってとこか。けど今時いとこだって結婚できるんだし。君こそ平気なのか」

「どうしてそこまで私と宮本課長の事、疑うんですか」

「それは、人事異動の件だよ。蘭さんは今年度異動になったけど、本当は昨年度に異動の予定だったんだ。それを阻止したのが宮本さんなんだよ。知らなかったのか」

ど、どういう事?
そんな話聞いてないし……でも何故?

「その様子じゃ知らなかったみたいだな。宮本さんが蘭さんを教事1課から出すのを拒否したんだ。だから1年延期になったって訳さ。よく分からないもっともらしい理由で部長たちを丸め込んでたけど、要は君を手放したくなかっただけだ」

本当に?
この人の言う事だから、信用しない方がいいのかも知れないし。

「結婚が決まったからちょうど良かったんじゃないか?引き留めたかと思えば、あっさり放り出して。まあ俺も人の事言えないか」

「高柳さんのこと、やっぱり追い出したんですか。どこまで自分勝手なんですか、小久保課長」

高柳さんの悲しそうな顔が浮かんでくる。

「そうか?夕梨にとっては良かったと思うけど。だって教事1課には、元彼がいるんだからな。俺にしては温情をかけた異動をさせたつもりだけど。これでアイツらも簡単に戻れるだろ。万事OKってやつだよ」

高柳さんの元彼って、佐伯主任しかいないよね。
邪魔になったからって人の気持ちを弄ぶなんて酷い……。

「元彼って。そんな課長が思うようにはいかないんじゃないですか?人の気持ちって単純じゃないんですから」

バカにしたように鼻で笑い、距離を詰めてくる小久保課長。

「蘭さんには、まだまだ分からないんだろうな。けっこう単純なもんだぜ?男と女はアレだからな……」

「アレって……なんですか?」

「つまりアレだよ。高柳夕梨って女は、まあ簡単に言えば"魔性の女"ってことだ。だから俺もずっと離れることができなかった。佐伯だって男だからな。アイツもまだ夕梨のことを忘れた訳じゃない。強がっていても簡単に夕梨に堕ちるさ」