カチャ……ん?
カチャカチャカチャカチャ……え?
空回りするばかりで、扉が開かない。

「あれ?開かない……」

奥の方から課長が声をかけてきた。

「どうしたの、蘭さん。早く仕事に戻った方がいいんじゃないの?」

「さっきからノブが空回りしてて、開かないんです」

そうだ!携帯がある!!
これで誰かに連絡して、外から開けてもらえば……。
さっそく携帯を取り出すと、課長から止められた。

「誰に連絡するつもり?止めといた方がいいと思うけど」

ここから出られない状況に似つかわしくない不敵な笑みを浮かべて、こっちに近付いてくる課長。

「だって、このままじゃ……」

「蘭さんは知らないのかな?ここの資料室って"密会スポット"って呼ばれてるんだけど」

密会スポット?
そんなの聞いた事もない。

「そうですか知りませんでした。でも課長と私は密会でもなんでもないし、早くここを出たいので」

「分かってないな。君がどう言おうと、ココに俺と君がこうやって一緒にいるだけでそういう目で見られるって事だよ。そういう類の噂って尾ひれを付けてあっという間に広まってしまうもんだよ。否定すればするほど逆に怪しまれるし。俺は別にそれでも構わないけどね」

う……。
佐伯主任には誤解されたくない。
どうしよう、どうしたらいいの?

「まあそんなに心配しなくても、誰か来るかもしれないし。それまで待つしかないんじゃないかな。せっかくだからこの前の話の続きでもしようか」

この前って、料亭に連れ込まれたあの時の事だよね。

「私は課長とお話しすることなんてありませんけど」

「ふうん。同じ課長でも、俺はダメで宮本さんはOKなんだ」

……答える気にもならない。
手に待ったままの携帯を素早く操作して、気付かれないように棚の隙間に置いた。

「そういえば、木原課長にも色目使ってたらしいね。課長フェチ?俺だって立派な課長なんだけど、何がダメなんだろうな」

もう、なんなのこの人さっきから。
勝手に1人で喋っていればいいんだわ。

「宮本さんもう入籍したらしいね。しかも相手は君の友達だっていうし、蘭さんも辛い立場なんだろ?俺は宮本さんと同じ立場だから何て言っていいか……。俺も夕梨の友達と結婚したからさ」