──6月4日。

長かった約1ヵ月の人事交流も今日で終了。
やっと、営業1課での勤務も終わるんだと思うと、ホッとする。

「蘭さん!今夜こそは飲みに行くわよ!!」

「今日で最後なんて寂しいけど、私たち同期なんだからこれからも時々招集かけるからね!」

池田さんと朝川さんはいつも通りテンション高めだ。
営業に来て唯一良かったことと言えば、今までほとんど交流がなかった同期の2人と仲良くなれそうなことかな?

ある意味、無駄ではなかったのかも。
ちゃんとここで"人事交流"できたんだよね、私も…。

小久保課長は相変わらず出張や外出が多く、私は課長の補佐というよりも、営業1課の小間使いといった立ち位置をキープしていた。
今日は最終日だということもあり、私も少し心が軽くなっていたんだと思う。
午前中は会議でワーセクに出向いていた課長が昼休みが終わる頃に戻ってきて私に告げた。

「蘭さん……。ちょっと探したい資料があるんだけど、手伝ってくれるかな」

"資料室"
ここには何度か来たことがある。

「蘭さんに、この前ここから持ってきてもらった発注データのファイルの場所を聞いておこうと思って」

私が補佐についた初日に頼まれて探してきたファイルのことだろう。
私が今日で最後だから?
だけど自分で取りに来なくても、また補佐してくれる人に頼めばいいのでは……。
別にいいか、そんなこと私の知ったことではないし。

「課長、このBー1の棚です。発注データの他に納品履歴なんかの資料もここにありますから。パソコンで見ることが出来ない古いデータなんかは大体この辺りを探せば見つかると思います」

後でいろいろ聞かれるのも面倒だから、詳しく説明しておこう。

しかし、当の本人は……。
大して興味無さそうに近くのファイルを引っ張り出したり引っ込めたりしている。

「課長!私の説明聞いてましたか?発注データの場所はこの……」

「ああはいはい。Bー1だろ?聞いてるよ。ありがとう」

「良かったですお役に立てたようで。では仕事に戻ります」

こんな場所に課長と2人きりなんて、寒気がする。
さっさと出なきゃ。
動く気配のない課長を残し、資料室の扉のノブに手をかける。