──5月20日。

「この、バカ野郎が!!俺があれだけあの男には気を付けろって言ってたのに……。まんまと嵌められやがって!」

「はい……。すみませんでした、主任……」

歓迎会と称し、小久保課長にいかがわしい高級料亭に連れ込まれた翌日。
私は佐伯主任から、こっぴどくお説教を受けた。
仕事でもこんなに叱られた事ってない……と思うけど。

「だいたい、場所が変わったなら連絡しろよ!」

「するつもりだったんですよ。トイレに抜け出してからしようと思ったらトイレの場所は分からないし、イチにぃと上村課長が……あっ!!」

しまった!これ言って良かったの?
菜津美の前で。

「いいよまひろ大丈夫。昨日の夜、まひろが帰ってからちゃんと一弥さんが話してくれたから」

ああ良かった。
そう、ここはイチにぃと菜津美が引っ越したばかりの新居のマンション。
昨夜もイチにぃが小久保課長から私を引き離してくれた後、ここに連れて来てくれた。

「……まあ、何事もなかったから良かったじゃないか。でもあの対面がなかったらって思うと、ヤバかったかもな」

それって、私が小久保課長と……。
嫌だそんなの考えたくもない!!
慌てて話題を変えようとして私の口が動く。

「小久保課長が、イチにぃと上村課長のツーショットが収穫だって言ってたの。あの場所は大人の忍び宿だから、食事だけってのは通用しないって……。本当にそんな場所なの?」

「そういう"お忍び"目的でやって来る男女も多いだろうな。俺と上村さんは、あくまでそういう風を装ってただけだけど」

会社の上層部の人間も、訪れるって言ってたよね。
極秘情報なんかを話し合ったりするのかな。

「それでね、あの、すごく言いにくいんだけど……。小久保課長はどうも誤解しているみたいなんです」

佐伯主任が"誤解"という言葉にいち早く反応した。

「何を?何を誤解してるっていうんだ」

「……イチにぃと私のことを『訳ありなんだろ』って。だから、私と小久保課長が2人でいるところを見られるように計算してたのかも」

「そこにいい具合に俺と上村さんが居合わせて、奴にとっては一石二鳥だったって訳か。俺も油断したな。駅近の小料理屋で歓迎会と聞いていたから、あそこにいるとは思わなかったしな」