「麗花さんと父は、親同士が決めた許嫁だったそうです。麗花さんが二十歳になったら結婚させるつもりだったらしく、麗花さんもそのつもりだったと言ってました。父が北国を離れてからも、麗花さんは花嫁修行をしながらお嫁さんになる日を夢見ていた。だけど父は麗花さんと結婚するつもりなんてなかった……」

話すと覚悟を決めたはずだったけど……。
いざとなると、躊躇する。
だって、私の存在そのものを否定されてしまったんだもの。

私なんか、生まれない方が良かったの?
そしたら、麗花さんを不幸にすることはなかった?

「まひろ、大丈夫か?」

主任が私の手に触れ、大きな手で包み込んでくれる。
温かい……。
冷えかけてきた心まで温かくしてくれるよう。
深呼吸して、更に心を落ち着けた。

「北国を離れた父に不安を感じていたのか、麗花さんのお父さんは麗花さんが16歳になったら直ぐにでも結婚させようかと思ったらしいです。だけど、それは叶わなくなった。だって……」

唇が震える。

「私が…………できたから」

声も震えている。

「私の両親はできちゃった結婚だったんです。そのことはずっと前から知っていたし、嫌だなんて思ったこともありません。だけど、そのせいで不幸になった人がいたんだと知って、私の存在を全否定された気になったんです……」

主任の手の中で、カタカタと震え出す私の手。
それを落ち着かせるように、しっかりと力を込めてギュッと握り直してくれる。

「私が麗花さんの幸せを奪った張本人だったんです……」

「何言ってんだ、そんなわけないだろ」

ピシャリと私の言葉を否定する主任。

「お前は、ご両親に望まれて生まれて来たんだ。俺はその当時の話も聞いたから、間違いない。その麗花さんって女性は誤解しているようだな。何にしてもお前が責任を感じることではない。それだけは言っておく」