食後のコーヒーまで戴いて、すっかりお腹も心も満たされた私たち。
ここにやって来た本来の目的を忘れてしまいそうになる。

「さて落ち着いたところで、本題に入るとするか」

来た!
大事な話って、一体どんな話なんだろう。

「まひろの両親の話だけど、俺たちにも関わってくる話だ。聞きたくない話もあるだろうけど、俺に免じてきちんと聞いて欲しい」

やっぱり……。
邦都市で麗花さんから聞いた話と同じなのかしら。
私が実は幸せの略奪者だったっていう……。
正直言って聞きたくはないけど『俺に免じて』なんて主任に言われたら、聞きたくないなんて言えない。

「わ、分かりました。いつまでも嫌がって逃げてばかりじゃダメですよね。私、両親が離婚する事になって、父にずっと反発して嫌ってきました。もう子供じゃないんだから覚悟決めないと。主任から話してもらえるんだったら、ちゃんと聞く事ができそうです」


主任は、私が邦都市に出張に行ってるときに聞いたということを、話し始めた。

「まひろのご両親が離婚したのは、あかりちゃんが生まれる前だよな。お父さんの浮気、だったっけ?」

「そうです。だって相手の女性、麗花さんが妊娠したんだから」

私が『麗花さん』と名前を出したので、ちょっと驚いたように見えた主任。

「相手の名前、覚えてたんだな」

そりゃ最近会ったばかりだし。
いや、会わなくても忘れられるわけない。
私にとって"幸せの略奪者"と思い、恨んできた人なんだから。

「で、まひろが言った"浮気"だったっていうのは……正確にはちょっと違うらしいんだ」

「え、どういう意味ですか?」

「妊娠したのは間違いないんだけど、その……たった1回きりの関係を持ったのも、酒を飲まされてかなり酔った上でのことだそうだ」

酔っぱらって、関係を持った?
でも浮気に変わりはないんじゃないの……?