「蘭さん、貴女って本当に何も知らないのね。まあ知らない方がいいこともあるだろうけど。拓実さん……小久保拓実さんは、営業部1課の課長。そう言えば分かるかしら」

営業の、小久保課長だ。
不倫してたなんて。
"切れたことがない"って?

「つまり、高柳さん。課長と不倫しながら主任とも付き合っていたんですか!?」

「そうなるわね。結果的には」

信じられない!
どうしてそんなことを堂々と宣言できるんだろう。

「翔には悪いことをしたと思ってるわ。私たち、お互いが嫌いで別れた訳じゃないの。翔は私を許そうとしてくれた。だけど、あの時の私はまだ拓実さんに縛られていて、離れることができなかったの。あれから5年経って、私も呪縛からやっと解き放たれる時が来たのかも。私も翔と同じように、営業から追い出されたんだから」

「追い出されたって、異動の話ですか。主任も……佐伯主任も追い出された?」

「そうよ、拓実さんは邪魔者は排除しようって考える人だから。元々はそんな人じゃなかったのに。結婚が全てを変えてしまったのよ。……話が逸れたわね。翔がたった2年で営業から広報に異動になったのをみんな不審がってたけど、真相を知ってる人は限られてる。新人離れした営業センスと行動力で営業のエースとなった翔を異動させたのは、拓実さんよ。彼にとって翔は邪魔な存在だったの」

有能な部下、じゃなかったの?
営業成績はトップの課長に迫る勢いだったとか。

「拓実さん、このままじゃ翔にトップの座を奪われてしまうって危機感を持っていたの。実力じゃもうとっくに抜かされてたんだけどね。彼が結婚した相手は、常務の娘なの。娘が可愛い常務は、拓実さんが常に営業でトップでいられるようにいろいろ裏工作してたようね。もともと実力はあったのに、すっかり常務のいいなりになるようになって、仕事のやり方も変わってしまったの。常務の権力という後ろ盾がなければ、何もできなくなってしまったのよ……」

そんな理由で、主任は営業から異動させられたの。