もしそうだとしたら、彼女は主任の携帯の暗証番号を知ってる。
だって主任は携帯にはロックをかけてるはずだから。
私には暗証番号を教えてはくれなかったけど。

素直に聞けばいいのかも知れないけど、心身ともにダメージが大きかった先週末の余波からまだまだ立ち直れそうにないため、私はテンションが上がらず卑屈になっていた。
幸か不幸か、休んだ分の仕事が山積みになっていて余計なことを考えている余裕もなかったから、まだ救われているのかも。

今日も明日も残業になりそう。
迫田さんが私に何か話しかけてくるけど、内容が頭に入ってこないからとりあえずスルー。
今は目の前の仕事に集中しよう。

昼休みになって、菜津美が広報まで私の様子を見に来てくれた。

「まひろ、具合はどう?シャ食行こうよ久し振りに」

「うん。ありがとう菜津美。あんまり食欲はないんだけど……いこっか」

シャ食はいつものように活気に包まれているけど、私のテンションは上がらないままだった。

「まひろ、まだ体調悪そうね。無理して出てきたんじゃないの?」

菜津美に心配させないようにしなきゃと思うのに、いまの私にはそれすらも無理なようだった。
でも、なんとか誤魔化さないと。

「慣れない出張で気合い入れすぎたのかな。交流会の前半まではいい調子だったはずなのに、どうかしてるね」

「ふうん。後半に何かがあったんだ。詳しく聞きたいけど、シャ食では話せないんでしょ?」

ぐ……。
誤魔化したつもりが、菜津美には通用しないか。

「私も何がなんだか。混乱しちゃってる。菜津美には話したいけど、忙しいもんね。入籍はまだ?」

イチにぃは『早く籍を入れたい』と言っていたけど。

「もうすぐだよ。6月は慌ただしいからって。一弥さんが忙しいのもあるけど、私の誕生日に入籍したいらしいの」

「そっか、25歳になったらもう"宮本菜津美"なんだね!」