上村課長は本気で高柳さんを広報に欲しがっていた。
おそらく私とトレードしたかったんだろうと思うけど、だからと言って私が教事1課にそのまま戻れるとは考えにくい。

だとしたら、私の行き先は……営業?

高柳さんが退職することにより、このトレードは立ち消えになったはずだから、私が異動になるのはまだ先の話だろう。

いま先の話を考えても仕方ない。

「それにしても、あの彼が堂々と恋人宣言しただなんて信じられないわ。ここまでしたんだから別れたりしたら恥ずかしいわよ。忠告ってわけじゃないけど、ひとつだけ言ってもいい?」

元カノからの、忠告?
なんだか嫌な予感がするけど。
それって聞かないといけないのかな。

2人がどんな付き合いだったのかなんて知りたくないんだけど。

だけど高柳さんは会社では先輩だし、翔真の彼女としても先輩だよね。
これから小久保課長と幸せになろうとしてる彼女が、今更私に意地悪なことなんて言わない……よね。

「蘭さんはまだ若いんだから、いろいろとアレなんじゃないかと思って。どうなの?満足できているのかしら」

「……何がですか?言っている意味がよく分かりませんが?」

「もう!意外と鈍いのねアナタ。だから、ハッキリ言って彼ってアレでしょ。見かけによらず草食系というか、がっついてないというか。こっちから誘っても応じてくれなかったりするでしょ!」

なにが?
誰のことを言っているの?

「私はほら、拓実さんに愛されてたから。でも蘭さんは佐伯主任オンリーなんでしょ。持て余したりしてない?それだけがちょっと気がかりなの。女同士の方が分かるって事もあるでしょ。私みたいな魔性の女と付き合っててもなかなか手を出してこないんだもの。どうかしてるわよね?どんだけ淡泊なのかしら。私相手でもああだったんだもの。蘭さんじゃ色気で誘うことも無理でしょ!だからって私みたいに浮気しちゃだめよ。もっと女を磨いて夢中にさせることね。だって、好きな男に抱いてもらえないって寂しいじゃない……」

…………はい?
それって本当に翔真の話?
淡泊とか、想像もできないんだけど。

だって結構嫉妬深いし、キス魔だし。
私から誘うなんてそんなこと、したこともない。

『主任の部屋のベッドで……抱いてください』

あっあれは!!
私が誘ったんじゃなくて、言わされたというか……。
とにかく私の方から迫ったりなんて、ないんだから!!

「高柳さんに心配していただく必要はありませんから。大丈夫です、間に合ってます」

「まあ、せいぜい仲良くする事ね。言っておくけど私にとって翔はあくまで浮気相手でしかなかったの。だから未練の欠片もないし、安心していいわよ。お幸せにね蘭さん」

「ありがとうございます。高柳さんも、小久保課長とどうかお幸せに」