「運命はあの瞬間に決まってたんだろうな。やっと……」

あ…………。
翔真の顔が急接近してきて、慌てて目を閉じた。
でも、ここ会社だよね。
いいのかなこんな場所で。

今にも唇と唇が触れそうになった瞬間、信じられないことが起こった。

ぐるるるるるるるぅ~!!

「………………」

「………………」

あ、穴があったら入りたいって、こういうことなのね。
さっきのは大音響で部屋中に鳴り響いた私のお腹の虫の音だ。

「あっはっはっはっはっは!!悪い悪い腹減ってるんだなまひろ。さっさと帰るつもりだったのに、遅くなってしまった。さあ飯食いに行くか!」

せっかくの甘いムードが私のせいで一気に吹き飛ばされてしまった。

もう、私の……バカ。

「今日は私に奢らせてくれるでしょ?だって翔真の誕生日なんだから。奢らせてくれないんだったらご飯食べに行かない!」

恥ずかしさを誤魔化すために、ちょっぴり強気発言したけど……。

『じゃあ食べずに帰ろう』なんて言われたらどうしようって直ぐに後悔してしまって情けなくなった。

「なんだよ、こないだもご馳走してもらったじゃねーか。気にしなくていいのに。でも俺も腹減ってるし、今日は大人しく奢られてやるよ。『腹が減っては戦は出来ぬ』っていうからな」

そう言うと、入口のドアにしっかり施錠して私の手を取った翔真。

「もう会社でも隠す必要なくなったし。これからは堂々と一緒にいられるな、まひろ」

会社に残っている社員の数は少なくなっていたけど、すれ違うたびに振り返って見られたりするのが恥ずかしかった。
資料室での一件もかなりの野次馬に目撃されてしまったし。
明日から噂が広まってしまうんじゃないかと思うと、落ち着かなくなってきた。

「ああ、明日からどうなるんだろう……」

「ん?どうもしないさ。いつもの通り"笑顔なし、愛想なし、容赦なし"でOKだろ」

私とは対照的に、清々しさを感じさせる翔真の表情。
噂の的になるなんて、一番嫌がりそうな状況を楽しんでいるようにさえ見える。

もう!私だって開き直ってやる!!

「ねえ翔真!私お好み焼きが食べたくなっちゃった」

さっきスルーしてしまった翔真の『腹が減っては戦は出来ぬ』発言の意味を知るのは、食事の後の話。