「佐伯、お前今日はノーザン申請出してただろ?もうとっくに定時すぎてるけど、どういうことだ。ノーザン達成出来なければ罰金だって知らないはずはないよな。今まで達成率100%だったお前が、ここでまさかの……」

イチにぃが『タイムカードの操作は任せろ』なんて自信有り気に言っていたが、罰金は避けられないのか。
しかしどうして海東から指摘されないといけないんだ。

「ノーザンの管理は総務の仕事じゃないのか?なんでお前が」

「ああ知らなかったのか。今年度からノーザンは人事部の管轄に変わったんだよ。それで、俺が主担当になったわけ。こうも堂々と俺の前にノコノコ現れるとは!俺を甘く見るなよ、同期とはいえ容赦なしだ」

罰金なんかこの際どうでもいい。
こんなとこで油を売ってるわけにいかねーんだよ!

「ちょうど良かった海東。もしかしたら総務部に資料室の鍵が有るかもしれないから、有ったら借りてきてくれないか!?大至急だ頼む!!」

「は?なんで俺が!誤魔化すつもりか佐伯。その手には乗らな……」

「いいから早くしてくれ!一刻を争う事態なんだ。早くしないとまひろ……蘭さんが」

しまった!
焦っていたとはいえ、まひろって呼んでしまった。

「あれ?そういえば蘭さんも今日はノーザン申請出してたのに、まだタイムカード押されてなかったようだな。お前と蘭さんって」

もうだめだこれ以上時間をかけられない。
まだ喋っている海東に構わず、駆け出しながら叫んだ。

「海東!いいから早く総務に行け!!」

周りの社員にどう思われようと知った事ではない。
そんなことに構っている場合じゃないんだ。
こんな時に限って残業してる社員が多いような気がするが。
興味津々とでも言いたげな視線をものともせず、一目散に資料室を目指す。

フロアの一番奥にひっそりと構えている"資料室"のドアの前に立つ。
とりあえず呼吸を落ち着かせ、静かにドアノブに手をかけた。