「………………というわけだ。ここにラーセク始まって以来の6年4ヶ月分のデータのファイルがあるから。データチェックは得意だよな。……よし、アクセスOK。間に合ったようだな。俺がここに戻ってくるまでこのアクセスを切らないように、くれぐれも頼む。それから、ドアに鍵をかけるのを忘れないように。部長は今日は戻らないから、俺が戻るまで誰が来ても居留守で通してくれ。あ、携帯は念のために電源OFFで」

「あの、俺今日はノーザン申請してるんで定時で退社しないといけませんが。……この量じゃ、どう考えても無理じゃないですか?」

な、なんだって!?
ノーザンだと?こんな日に!

「悪いがそれは無理だな。諦めろ」

「じゃ、課長に罰金払ってもらいます」

そうかノーザン達成できなければ、罰金1万円だったよな。
俺に払えと?ふざけるなよ。

「解った。タイムカードの操作なら任せろ。心置きなく残業してくれ。じゃ、早速頼むぞ」

これで大丈夫だ。
ここは翔にまかせておけば心配ない。
部長が不在時は部屋には誰も入れないのだが、今日は緊急事態ってことで許可を得ている。

アッチはこんなことが許されるなんて思ってもいないだろうから、この絶好のチャンスを逃すはずもない。
きっと仕掛けようとしてくるはずだ。
先輩から預かっているIDカードを握りしめ、心を落ち着ける。

ここで失敗する訳にはいかない。
大丈夫だ……上手くいくはずだ。
早く早くと気が急く思いだが、焦りは禁物。
ここまで周到に準備を重ねてきたんだから、どっしりと構えて余裕を見せつけてやるさ。

小久保拓実……首を洗って待ってろ。
お前の野望は俺が責任持って打ち砕いてやるから。

小久保とは同期入社。
アイツは営業一筋で一年目からそのセンスを認められていた。
主任になったのも課長に昇進したのもアイツの方が早かったけど、別に俺はそんなことはどうでも良かったんだ。
特にアイツのことを意識していた訳ではなかったから。

ただ、アイツの方は違ったらしい。
俺のことを勝手にライバル視していたというのだ。