『そのことなら一弥さんからその日の夜に聞いてたから、平気よ。まひろも佐伯主任にはちゃんと話してるんでしょ?』

「うん……。そうなんだけど……」

『じゃ問題ないでしょ。それより一昨日は主任の実家に行ってきたんだよね?もういよいよなんでしょ!どうなの詳しく聞かせてよ!』

「あのね………」

結局、いつものノリで話しこんでしまい長電話。
良かった菜津美がイチにぃに愛想を尽かして実家に帰ったなんて、信じてたわけじゃなかったけど。
菜津美と直接話が出来て良かった。

お母さんの入院も短期だから今週中には退院できるらしいし、油断はできないにしてもちょっと安心した。


「姉貴!!いい加減にしてくれよ」

菜津美との電話を切った途端、新がノックもせずに私の部屋のドアを勢いよく開けた。

「やだ新、ノックくらいしなよ。どうしたの?なに怒ってるの」

「翔さんから何回も俺の携帯に電話がかかってくんだよ。姉貴の携帯に繋がらないって。フィアンセをほったらかしにして何やってんだ?」

あ、イチにぃや菜津美とずっと電話していたから。

仕事終わりに翔真に電話したら『夜にかけるから』って言われてたんだった。
仕事終わってすぐ電話くれたのかな?

「ごめんね新。今からかけるから」

そう言ってるそばから、私の携帯が鳴り出す。
もちろん、翔真からの着信。
物凄くイライラしていたりして。
怒鳴られることを覚悟して通話のボタンを押した。

「もっもしもし。ごめんね翔真、さっきまで菜津美と長電話しちゃって」

『そうか。それならいいんだ』

あれ?予想外に穏やかな声だ。

「見たんでしょ?あの怪文書……。イチにぃは"K作戦"なんだろうって言ってたんだけど、私には関わらせないって。私もうとっくに関わってると思うんだけど」

翔真にとっても小久保課長は因縁の相手。
こんなことされて黙っていられるわけがないよね。

『今回の件は、単なる嫌がらせって訳ではなさそうだな。俺とまひろの関係もまだアイツには知られてなさそうだから、そこだけは知られる訳にはいかないって。俺もシャットアウト状態なんだ。余計な事はしてくれるなって。ただ、俺にはそのうち極秘の任務があるらしいから待機だってさ。もう多分イチにぃの中ではシナリオが出来てるんじゃないか?最近部長たちと会議とか打ち合わせとか頻繁だからな』