「母さん、俺は佐伯家の長男だとか血の繋がりだとか関係なくS・Factoryを継ぐつもりはないから。だってあの会社は父さんと祥平が築き上げて守ってきたんだろ。俺の出る幕なんてない。ただ、さっきも言った通り俺に出来る事があれば力になりたいと思ってる」

お母さんは、もう反論しなかった。

「ずっと黙っててごめんなさい……。本当のことを言えなくて、ごめんね……翔真。佐伯と血が繋がってないと知ったら、佐伯家とは縁を切ってしまうんじゃないかって怖かったの。真さんにも嘘を吐かせる事になってしまって、本当にごめんなさい」

「文子さん、私は感謝しているんだよ。私の息子を産んでくれて、そしてその大事な息子を私に託してくれて、本当にありがとう。佐伯家の長男として、ずっと守ってくれてありがとう。なあ文子さん、ひとつ頼みがあるんだが……。文子さんと私はいとこ同士ってことで交際を認めてもらえなかったけど、いとこ同士の恋愛や結婚は悪い事じゃない。祥平くんとサチさんのことを認めてやってもらえないか?」

私も、そう願う。
翔真にその気がないってことは分かっているけど、他の誰かと縁談なんて心穏やかではいられない。
翔真の婚約者は、私なんだから。

翔真も祥平さんも龍崎さんも、じっと黙って待っている。
お母さんの反応を……。

「真さん。私たちは一緒になれなかったけど、あの頃の気持ちに嘘はなかった。真さんを好きだったことも、佐伯の元に戻ったことも、後悔していません。私たちのことを認めてもらえなかったからこそ、祥平とサチさんには幸せになってもらいたいって思えるようになりました。今日はお会いできて良かった。ありがとう真さん」

「えっ、じゃあ!俺とサチは結婚していいんだな?そうなんだろ母さん!」

「……気が早いわよ祥平。そうなるためにはするべきことがあるでしょ。善は急げって言うし、今から早速行くわよ」

そう言って立ち上がったお母さん。

「行くって……何処に?」

祥平さんは腰を浮かせながらも、戸惑いを見せている。