「俺と佐伯の父は、血の繋がりだけだと思っていたのに。血が繋がってないなら、何も残らない。心の繋がりがあったとは思えないからな。ほとんどまともに話したことだって無かった。だから俺は愛されてなんかいないんだと思ってたよ」

だけど、それは違うって事を知ったよね。
佐伯のお父さんもきっと不器用で、どうやって愛情を示したらいいか分からなかったんだろうな。

「なのに、本当は俺のことを大事に思っていてくれたなんて。どうして今更なんだ!どうせなら本人の口から聞きたかった。生きている間に直接聞かせてほしかった。そしたらもっと親子らしい"心の繋がり"だってできたかも知れなかったのに」

うん……。
亡くなった後で知らされるなんて、遅すぎたよね。
もっとお互い歩み寄れたかも知れなかったのに。

「ねぇ、翔真。今度は私を佐伯の実家に連れて行ってくれるんでしょ?その時に佐伯のお父さんのお墓参りしましょう。私もお父さんに伝えたい事があるから。『翔真を大事に想ってくれて、愛してくれてありがとうございます』って……」

「そうだな。俺も文句言ってやらないと気が済まない。何も言わず勝手に逝ってしまいやがって……クソ親父。死んじまったら親孝行出来ねえじゃねえか。ちくしょう」

きっと心は繋がってるよ。
文句だって受け止めてくれるはず。
きっと本音で話せるよ……。

「さて、ブレイクタイムは終わりだ。いくぞ、まひろ」

「あ、まって!吉田先生から、翔真に伝えて欲しいって言われた事があるの」

私から言っていいのかな?
自分から言うのが照れくさいのかもしれないし、ね。

もう涙も止まって、スッキリしたような翔真の目を見つめたまま告げる。

「『翔真』って名前を考えたのは、吉田先生なんだって。自分の名前の『真』に『翔』を付けて『翔真』大空を翔るように、自分を遥かに超える男になって欲しいって願いが込められているんだって。お母さんはそれを知ってたから、佐伯家の長男であってもどうしても『翔真』って名前にしたかった。佐伯のお父さんも許してくれたって……」

「……まったく父さんも。まひろに言わせるんじゃなくて自分で言えよな!」

そう言いながらも嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないはずだよね。
照れた表情を見られたくなかったのか、私を置いてさっさと階段を下りていく翔真を私もすぐに追いかけた。