「翔真!」

抱きついてもピクリともしなかったのに、名前を呼んだだけで震えたのが分かる。

「翔真……。私には全部さらけ出してよ。無理矢理気持ちを整理するなんて、私の前ではしないで。だって私はありのままの翔真が好きだから。ありのままのあなたを感じていたいの……」

「ありのままの……俺を?」

ちょっと声が震えてる。
ほら、やっぱり無理してたんだね。

「そうよ、ありのままの『佐伯翔真』を私に見せて」

抱きついた腕を引き剥がし、くるっとこっちを向いた翔真としっかり見つめ合った。

…………初めて。
翔真の目から溢れる涙を見たのは、初めて。
思わず背伸びをして、その頬を流れる涙を唇で受け止めた。
零れる涙の数だけのキスで……。
そんな私を力強く抱き締めた翔真が、言葉を紡ぎ出す。

「俺、吉田翔真になりたかった。どうして俺は吉田の父さんの息子じゃないんだろうって思ってた。だから父さんが実の父親だと知って……嬉しかった」

そうだよね、本当に良かったね翔真。
そんな想いを込めて、私も翔真の背中に回した手に力を込める。

「だけど……。実の父親だと思っていた佐伯の父とは血が繋がってなかったって。血が繋がっていないのに俺を佐伯家の長男だって、いつでも俺を受け入れるつもりでいてくれてたっていうんだろ?どうして……」

いつも堂々としていて、弱さなんて見せない主任だけど、今は私に素顔をさらけ出してくれている。
ありのままの『佐伯翔真』として。

「血の繋がった家族っていうのももちろん大事だと思う。でも血が繋がってなくても心が繋がっていれば、立派な家族なんじゃないかな?だって実際、吉田先生と翔真だって今までそうだったでしょ。吉田先生も佐伯さんも、翔真にとってはどちらも大事な父親に変わりない。そうでしょ?」

黙って私の声に耳を傾けていた翔真だけど、力が抜けたように感じられた。

「そうだな、確かに。大事なのは血の繋がりじゃなく、心の繋がりだって俺も思ってきたんだ。だけど……」