real feel

ずっと黙って話を聞いていた主任が、すっと立ち上がって部屋を出て行こうとする。

「しゅ、主任……。どうしたんですか?」

「ちょっとブレイクタイム。休憩させてくれ」

振り返りもせず一言呟くとそのまま部屋を出てしまった。
居ても立ってもいられず主任を追いかけようとした私を、吉田先生が引き止めた。

「まひろさん、ちょっとだけアイツを1人にしてやってくれないか?ほんの10分くらいだけ」

「え、でも。いいんですか?1人にして」

今すぐにでも主任のそばに行きたかった。
何を言えばいいのかなんて分からないけど、ただそばにいたい。

「翔真は今1人で自分の気持ちを整理してるはずだ。自分の部屋で1人でいろいろ考えてるんだよ。昔から翔真は自分をコントロールするのが上手かったけど、そうさせたのは私だ」

そっか、主任が自分を律して弱さを人に見せないのは昔からだったんだ。
でも私には弱さも全部見せてほしい。

「あんまり放っておくとキッチリ整理をつけてしまうから、その前にまひろさんがアイツの想いを吐き出させてやって欲しいんだ。まひろさんにしか出来ない役目だよ。そして、アイツに伝えて欲しい事があるんだ」


主任の部屋の前で深呼吸する。
この閉じられたドアの向こうで主任はどんな想いを抱えているんだろう。
そして私はどういう言葉をかけてあげたらいいのだろう?

コンコンとドアをノックし反応を待ったけど、返事はない。
ちょっと悩んだけど思いきってドアを開けてみると、こちらに背中を向け窓の外を見ている主任の姿が目に入った。
顔だけ振り返った主任と視線が交わる。

「来たのか、まひろ」

一言だけ呟くと、また窓の方を向いてしまった主任。

私はまだ、言葉を発することができずにいる。

「まさか俺が泣いてるとでも?慰めに来たのか。俺を誰だと思ってるんだ。ちょっと休憩したかっただけだよ。もうちょっとしたら戻るつもりだったんだ……。わざわざ呼び戻しに来なくても」

よかった。
まだ完全には整理がついてないみたい。
間に合った、よね。

いつも私を助けてくれた主任を、今度は私が楽にしてあげたい。
その愛しい背中に飛び付くようにして、抱きついた。