real feel

どうして『叶わなかった』のか。
それは佐伯さんが、文子さんを迎えに来たから。
吉田先生は文子さんを返したくはなかった、だけど……。
佐伯さんがどれだけ文子さんを愛しているか、想いの深さを知って身を引く決意をしたのだそうだ。

「佐伯さんは、文子さんを失いかけて初めて文子さんが必要だと気付いたそうだ。文子さんを幸せにすると誓ってくれたから、私は引くべきだと思った。それから私は文子さんのことは忘れるよう努めたつもりだったけど、いとこ同士ということもあって嫌でも情報が耳に入ってくるんだ。そして翌年の夏、文子さんに子どもが生まれたということを知った」

「それって、俺のことだよな。父さん、もしかして俺は……」

ずっと黙って話を聞いていた主任が、我慢できなくなったように先生に問いかけた。
私の中にも、もしかしたら……という思いが芽生えている。

先生は一度、文子さんに視線を移したけど、文子さんは俯いたままだ。
そして今度はきちんと主任に向き直り、はっきりと告げた。

「翔真は私の息子だ。育ての親というだけじゃない。血が繋がった実の息子なんだ」

もしかしたら、そうなんじゃないかと思った。
もしそうだったらいいなって……。

「父さんが、俺の実の父親。血の繋がった、親子……」

主任、かなり頭が混乱しているようだ。
そりゃそうだよね。
今までずっと、実の父親は佐伯さんだと思っていたんだから。

だけど主任にとっては嬉しいはず。
あまりにも突然すぎたからまだ実感はないかもしれないけど。

「それじゃ俺と翔真兄さんは、父親が違うってこと?半分しか血の繋がりがないってことか……」

祥平さんが真実を知らされ、呆然としている。
やっぱりショック受けるよね。
ただでさえ離れて暮らしてきたのに、血の繋がりまで薄れたような気がするのかな。