real feel

「文子さん、佐伯さんが貴浩くんに託したという手紙を読ませてもらったよ。佐伯さんは本当に翔真を自分の息子として愛してくれていたんだね。だから私は、彼の想いを大事にしたいと思った。……だから翔真に話してやりたい。私の口から翔真に、真実を」

「真さん!そんな……私は……」

お母さんが項垂れてしまった。
その細く弱々しい肩を祥平さんが支える。
シーンと静まり返った中、吉田先生が静かに話し出した。

「私が翔真を引き取ったのは、翔真がまだ1歳になる前の赤ちゃんの頃だった。私は独り者だったけど、その頃は姉が近くに住んでいたから助けを借りながらの子育てだったよ。"イクメン"の走りだったんじゃないかな?もう30年近く前の話だから」

そうだったんだ。
子どもを引き取って育てるって相当な覚悟がないと出来ないことだよね。
だけどやっぱり気になるのは、どうして吉田先生が主任を引き取ることになったのかってこと。

「私と文子さんの関係だけど、家が近所で幼馴染みだった。そしてお互い好き合っていたんだ。だけど私たちが付き合うことは許されなかった。私たちは、いとこ同士だから、親からも反対されたんだ」

そ、そうだったの?
主任のお母さんと吉田先生はお互い好きだったのに、いとこ同士だから付き合えなかったんだ。
世間一般的に結婚だって認められているのに、親戚同士だと上手く行かなくなる事ってあるんだろうな。

お互いの気持ちが一番大事な気がするけど……。

だからお母さん、祥平さんとサチさんのこともダメだっていうのかな。
でもそれなら、どうして主任だったらいいの?

「文子さんは親の勧めで佐伯さんと結婚する事になったけど、佐伯さんは再婚だったから私は賛成できなかった。実際結婚してからも上手く行ってなかったみたいで、文子さんは一度逃げてきたんだ。佐伯さんから逃げて、私の元に。しばらくは私たちは一緒に暮らしていた。文子さんにはきちんと離婚して私と一緒になって欲しいと願ったけど、それは結局叶う事はなかった」