「佐伯の父は、そんなに俺のことを考えてくれていたのか。それは有り難いことだけど、亡くなったあとで聞かされてもな。生きているうちに本人の口から聞きたかったよ」

佐伯の父とはまともに話をしたことがない。
実の親子とは言っても、心が通い合っていなければ他人同然だと思う俺はおかしいのか?

俺にとっての父親は、やはり『吉田真』ただひとりしかいない。
血の繋がりより大事なもの、それは"心の繋がり"だろう?
吉田の父と俺の間には、血よりも濃い"絆"があると俺は信じている。

「サチさんは佐伯の親類でもあるし、うちの事情や"S・Factory"のこともよく理解してくれているのよ。是非うちにお嫁に来てほしいと思っているわ。だから翔真と結婚して"S・Factory"を継いでくれたら一番理想的なのよ」

勝手なことばかり言ってくれる。
俺が佐伯家にあまり寄り付かなかったのは誰のせいだと思っているのか。
俺がいなくても全く問題ない。
だいたい母さんの理想なら俺よりも……。

「祥平がいるじゃねーか。俺よりも祥平の方がサチさんと気心も知れてるだろうし、2人が一緒になれば何も言うことなしだろ?」

祥平とサチさんを見ると、2人とも大袈裟なほどビクッと肩を震わせて顔を見合わせている。

「ダメよ!!サチさんはお嫁に欲しいけど、祥平とじゃ関係が近すぎて…。だっていとこ同士での結婚なんて……。ダメに決まってるわ」

…………は?

「じゃあ、俺だってダメだろ。祥平と俺は兄弟なんだから、条件は同じだろ?」

「だっ…だからっ、翔真とサチさんは今まで接点がなかったし。うちの事情を知らない人にとっては分からないだろうし。気心なんて、今から付き合えばすぐになんとかなるものよ」

言ってることが滅茶苦茶だな。
しかし何故そんなにも動揺が激しいのか。

「かっ、母さん。あの、俺、じ……実は」

母さんよりも更に激しい動揺をみせている祥平が、何かを母さんに言いかけた。
しかし母さんはその祥平の言葉を最後まで聞こうとしなかった。