蘭家と宮本家の会合があった翌日。
俺は、実家に向かっていた。
……ひとりで。
次に佐伯家の敷居を跨ぐときは、まひろも一緒だと思った。
昨日までは。

そう、昨日まひろを送ってから家に帰る前に俺は電話をかけたのだ。

「……もしもし、祥平か?俺だ」

『もしもし、翔真兄さんか。電話かけてくるなんて珍しいけど、なんかあった?』

そうだろうな。
その反応は想定内だ。

「ああ、近いうちにそっちに行こうかと思ってるんだけど」

『え!?あ、そうか!蘭さんが兄さんに話をしてくれたってことか。それでようやく話し合いに応じてくれるってことなんだろ?』

邦都であった異業種交流会での話だろう。

「確かに聞いたけど、今回の目的はちょっと違う。まひろを母さんに会わせたいんだ」

『え、ちょっと待ってくれよ。ということは、兄さんは蘭さんと……』

「そうだよ。俺、まひろと結婚しようと思ってる」

弟相手に何を照れているんだ俺は……。
耳が熱持ってるのが自分でもよく分かる。
1人きりの車の中で電話をかけたのは正解だった。

『ふうん、そうなんだ。だけど兄さん順番が違うだろ?まず先に佐伯家のことを話すべきじゃないか。兄さんの結婚に文句を言うつもりなんてないけど、蘭さんを連れてくる前に兄さん1人で来てくれないと。蘭さんがいると話せないこともあるんだけど』

まあ、確かに。
前々から話し合いに応じていなかったからな。
自分の都合だけで進めるわけにもいかないか。
焦りすぎだ俺。

「そうか分かった。じゃあなるべく早く行くよ。明日とか」

明日はまひろが広報のイベント関係の仕事で休日出勤だから、時間の都合をつけることは可能だ。
これも完全に俺の都合だけど。

『いいの?じゃあ明日待ってる。母さんにも言っておくから。動き出すと早いな!明日何時ごろになりそうかまた電話してくれよな。じゃ兄さん明日な』