呆れたような目で私を見ているシュウにぃ。
主任から文句言われるなら分かるけど、他人からとやかく言われたりしたくない。

「あーあ、俺本当は兄貴とお前をくっつけたかったのに。なんで翔のためにこんなこと言ってるんだろうな。アイツは自分からは言わねえよきっと。名前で呼んでほしいなんてさ。多分お前のタイミングで呼んでくれるのを待ってるはずだ。察してやれよな!男心を」

そんなこと急に言われても、私にだって心の準備ってもんがあるんだし。

「俺や兄貴は従兄弟だから仕方ないだろうけど、他の男を親しげに名前で呼んだりするなよ?まあ、まひろに限ってそれはないか。男っ気なんてどこにも存在しないからな」

「ちょっと!なによそれ。確かにそうだけど……。シュウにぃには分からないのよ女心なんて」

シュウにぃって昔から自分が一番正しいって思ってるんだから。
私だって主任なんかじゃなく、ちゃんと名前で呼びたいって思ってる。
だけど、恋愛経験が乏しい私にとっては好きな人の名前を口に出して呼ぶなんて……ハードルが高すぎるのよ。
イチにぃだったらこんな風に私を責めたりはしないのにな。

「ところでお前、兄貴には言ってないのか?お前の本当の気持ち」

「本当の、気持ち?」

「だから、兄貴からは好きだったって言われたんだろ?まひろだって兄貴のことを好きだったじゃねーか」

ああ、あの秘境渓谷でのことを言っているのね。
もうそんなこととっくに忘れてしまっていたのに。

「言ってないよ。イチにぃが言わせてくれなかったんだ、私の気持ち。もう今更言う必要もないし。過去のことよりも、いまが大事でしょ?私がいま好きなのは、佐伯翔真ただひとりしかいないから」

一瞬目を見張ったけど、短く息を吐いてニヤッと不敵な笑みを浮かべたシュウにぃ。

「お前なぁ……。俺じゃなくて翔に直接言ってやれよな」