「宮本課長、本日は誠におめでとうございます」

壇上でひとりになった隙を狙って、イチにぃにお酌でもとビールを向けると、残ってたビールを飲み干してからコップを差し出してきた。

「おいおい、ココは会社じゃないだろ。課長はやめてくれよ。なぁ、まさか翔がまひろに入れ知恵したんじゃねーだろな」

は?俺が?

「そんなこと俺がさせるとでも。倍返しに遭うと解りきっているのに。とばっちりを受けるのは勘弁してもらいたいんですが」

「フン。まあ、前向きに検討してやるよ。本当はこの場でお前らの婚約を発表するのも良いかと思ったんだが、まだ早いかと思って。でもこれでまひろが売約済みだという認識が広まれば、お前も少しは安心か?」

安心?そんなに簡単に安心なんてできるかよ。

「お気遣いどうも。アイツの本質を曝してしまった事は後悔してませんよ。もしも、邪魔する輩が出てきたら俺が排除してやる。誰だろうと容赦なしだ」

「……ほどほどにな。俺の大事な従妹だからな、大事にしてやってくれよな」

分かってるさ、イチにぃ。
返事の代わりに片手を上げ、俺は自分の席に戻った。

暫く経ってから携帯を見ると、メールの着信ランプが点いている。
スーパーサイレントモードで着信音もバイブもならないようにしていたからいつ点いたのか分からない。
開いてみると、まひろからのメールだった。
思わずまひろの席の方を見ると、アイツもこちらを見ていたらしく目が合った。

『中学の同級生から二次会に誘われました。菜津美からも来てって言われてるので参加していいですか?主任も行きますよね』

はぁ。
今日はそうなるだろうと思ってたし。
会社の奴らも行くんだろうし、まひろが行くのに俺が行かないわけないだろ。

『了解。ただし、最後までは駄目だ。途中で適当に抜けて帰るぞ。またメールする』

送信。
すぐにメールを確認して、嬉しそうに顔を綻ばせている。
そんな柔らかな笑顔を、他の男に見せるなよ、まひろ。
アイツをあんな笑顔に出来るのは俺しかいないけどな。