──6月5日。

朝方。
いつもはひとり寝の俺のセミダブルのベッドにいつも以上の温もりを感じるのは、隣にまひろが眠っているから。

『大好きな主任がいつも寝ているベッドで……抱いてください』

本当にコイツは俺の理性をどれだけぶっ壊せば気が済むんだ。

恥ずかしがりやで風呂に一緒に入るなんていつになったら出来るのかと思っていたが、昨夜はまひろに関わる他の男にみっともなく嫉妬して、強引に風呂に連れ込んでしまった。

しかし、想像以上にヤバかった。

『……ここで欲しくなっちゃう』なんて。

あんな台詞をお見舞いされて、我慢できた俺の自制心を褒めてやりたい。

化粧をしていない素顔のまひろの寝顔はあどけなくて可愛らしい。
最近の俺は……というか、まひろを好きになってからの俺は、自分でも信じられないくらいに変わったと思う。
今までも女と付き合ったことはあるけど、ここまでひとりの女にのめり込んだことはなかった。

高柳だってそうだ。
アイツは俺に執着してこなかったし、仕事が忙しくてあまり相手ができなくても文句を言ってくるような女じゃなかったから、俺にとっては都合が良かったのかもしれない。

今になってみればアイツにとっての俺は単なる浮気相手で暇潰し程度だったに過ぎないのだろうから、ドライな付き合いでしかなかったんだ。

高柳と小久保の関係を知って、あまり構ってやれなかったから悪かったと反省した俺は、アイツを許そうと思った。
もう一度ちゃんと向き合うつもりだった。
しかしアイツの本命は小久保だとハッキリ言われて、俺の方が浮気だったんだということを初めて知った。
それ以来、もうなるべく関わらずいようと決めたんだ。

本当に許せなかったのは高柳と小久保ではなく、あの2人に関わってしまった俺自身なのだ。
俺にはきっと女運がなかったのだろう。
少なくとも、あの頃の俺には。

だから仕事に益々没頭するようになり『鬼主任』などと陰で呼ばれるようになったわけだ。