闇の中にかすかに浮かび上がる色とりどりのドレスを目の当たりにして美鈴はその場に立ち尽くした。

「どうした……? そんなところで遠慮していないで入ってくれ」

 美鈴がドレスに目を奪われているのを知っていながら、わざとリオネルは何でもないことのようにそう口にする。

 燕尾服の上衣を脱いで布張りの椅子の背に放り、ついでにネクタイも外して首元を寛げながら、ニヤニヤと美鈴の顔を見て笑う様がなんだか小憎らしい。

 光沢のあるグレーの生地で仕立てたジレは逞しい胸板を強調し、燕尾服の黒ズボンとの対比ですらりと長い脚をより際立たせていた。

 男らしい大きな手で髪をくしゃりとかき上げると、緩くウェーブした黒髪が彼の額にはらりと降りかかる。

 その艶やかな黒髪の間にはランプの灯りを宿して輝く一対の宝石のような瞳が爛々と光を放っているのだった。

 すっかりリオネルのペースに乗せられてしまっていることが悔しい美鈴は、無表情の仮面をつけ直して部屋の中に足を踏み入れるとリオネルが示す長椅子に腰を下ろした。

 毛足の長い上等の生地で覆われた椅子は柔らかく、身体が沈み込むような感覚を覚える。