キッパリと、そう言い放つ美鈴をリオネルは面白そうに眺めている。

「……はい。あの、お気をつけて」

 絞り出すしたような小さな声でレミはそう答えた。

 リオネルはレミにいたずらっぽく片手を振ってから美鈴の手を取って目の前にある六階建ての見るからに重厚な作りのアパルトマン入り口に導いた。

 慣れた手つきで合い鍵をさしこみ、ゆっくりと音をたてないように大きな玄関扉を開ける。

 玄関ホールを抜けるとすぐに石造りの立派な階段が現れ、美鈴を先に登らせてリオネルがその後に続いた。

 リオネルが後ろで掲げる手燭の灯りを頼りにユラユラと不安定に揺れる光の中、スカートの裾をつまんで用心深く階段を上がっていく。

 自分たちの立てる靴音だけが空間にこだましている。

 なんて、勝手な人なのかしら……!

 さきほどから、美鈴の胸にはかすかな不安と、戸惑い。そして憤りにも似た感情が湧きおこっていた。

 真夜中に『部屋に招待する』だなんて……。

『俺のことも君にもっと知ってもらいたい』