リオネルと目が合った瞬間、自然と頬が熱くなるのを感じて、美鈴は急いで窓の外に視線を移した。

 馬車が走り出してもう随分時経っている。
 往きに要した時間を考えれば、もうそろそろルクリュ邸の付近についてもよさそうな頃あいだ。

 しかし、周りに見える建物や街角の雰囲気から、今、馬車が走っている界隈は貴族の屋敷が数多く立ち並ぶルクリュ邸近辺ではないことが分かる。

 窓の外をしげしげと眺めてから、美鈴は思い切ってリオネルに尋ねた。

「リオネル、ここはどこなの?……どう見てもルクリュ邸に向かっているとは思えないけど」

「ご明察!さっき、レミに俺の家に寄るよう頼んでおいた」

「なんですって!」

 そういえば、公爵夫人邸で馬車に乗り込む際、ルクリュ家の御者であるレミの肩を抱いて、リオネルが何やらひそひそと話をしていたのを美鈴は思い出した。

「一体、どういうつもりなの?」

 美鈴が気色ばんだ様子でリオネルに詰め寄ると、リオネルは両手を『参った』というようにあげて美鈴を制した。

「どういうつもりもない、ただ、せっかくだから今夜、君を俺の部屋に招待したくなっただけだ」

 いつもの茶化すような表情ではなく、美鈴の問いに真顔で答えたリオネルはゆっくりと唇を動かし、囁くような声で続けた。

「俺は、君のことをもっとよく知りたい。で、俺のことも君にもっと知ってもらいたい……そう思ってね」

 窓の外、流れる街並みの中の街灯の光を映して、リオネルの瞳がきらりと輝く。

 美鈴は、今度こそ、リオネルが何を考えているのか本当に分からなくなっていた。