……一体どうして、そんな風に思えたのだろう?

 この世界に来て、リオネルと出会ってからたった数か月。

 今まで男性に心を開いてこなかった自分が、彼に対してそんな風に感じられたことが不思議だった。

 北ヨーロッパに似た気候のこの国では夏とはいえ、朝と夜は気温が急落し肌寒いほどに冷え込む。
 
 美鈴の剥き出しの肩に、リオネルがそっとショールをかけてくれた。
 細やかな折り目の柔らかな生地がふんわりと優しく肌に降りかかる。

「あ……ありがとう」

「どういたしまして」

 リオネルの長い指の大きな手がショールの上から美鈴の肩にやんわりと触れている。

 ……温かい手、いつもと、変わらない……

 ここに住む大半の人が眠りについているシンと静まり返った街の中、聞こえてくるのは二人を乗せた馬車の駆け抜ける音だけだった。

 リオネルの手から伝わる温もりを感じながら馬車の車内という密室に二人きりでいると、まるでこの世界には自分たち二人しかいないような気がしてくる。

 それは、何とも言えない不思議な感覚だった。

 闇の中、リオネルの瞳に探すように視線を漂わせると、すぐに濡れたような瞳がこちらを見返しているのがわかった。

 先ほどは笑みを浮かべていた端正な顔が、今はもう笑ってはいない。

 ほんの少し細められた瞳が、引き結んだ唇の美しい輪郭が、美鈴に何かを語りかけているようだった。