美鈴のただならぬ様子に驚いたリオネルは、そっと彼女の手からグラスを抜き取り、冷えた両手を握った。

 彼女の視線の先にいる男にチラと鋭い視線を投げてから、心配そうに美鈴の顔を覗き込んでくる。

「ミレイ……? 一体、どうしたんだ? あの男……君の知り合いか?」

 森の中であったあの出来事を、リオネルに話す気にはどうしてもなれなかった。

 それに、少なくとも現在の「彼」は身分のある貴婦人の同伴者としてこの屋敷にやって来たように見える。

 この場で彼との間にあったことを打ち明け、事を荒立てるのは得策ではないと考えた美鈴は、精一杯、平静を装ってリオネルに応えた。

「いえ、……知らない人。何となく気になっただけ――リオネル」

 リオネルに握られた両手から視線を上げて、美鈴は彼の顔をみて切り出した。

「……お願い、わたしの頼みを聞いて……?」

 男性に、個人的なことを頼むのはこれが初めてだった。

 リオネルのグリーンの瞳が眩しいものを見たかのように細められる。

 その瞳をまっすぐに見つめながら、消え入りそうな声で美鈴は呟いた。

「――この会場を……いいえ、舞踏会を抜け出したいの、今すぐに」