なぜ、あの男がここに……?

 二度と会うこともないと思っていた、あの男が再び目の前に現れたことに美鈴は驚きを隠せなかった。

 リオネルが怪訝そうな顔で見つめるのもかまわず、美鈴は窓辺に駆け寄って屋敷の正面玄関に佇む男をじっと見つめた。

 男の、ごく軽く、弓なりに曲げられた薄い唇は微笑みのような表情をつくっていたけれども、彼の暗い色の瞳は笑ってはいなかった。

 野心家らしい鋭い眼光のよく動く瞳は、光輝く侯爵夫人邸の灯りを受けてギラギラと輝き、辺りを見渡している。

 間違いない、あの時の男だ……。

 そう確信すると同時に、ブールルージュの森で感じた恐怖が、まざまざと美鈴の胸に蘇ってきた。

 線の細い外見に不釣り合いな力強さで美鈴の手を抑え込み、決して放すまいと必死になっている男の表情には鬼気迫るようなものがあった。

 それが善いものなのか、悪いものなのかは別として、確固とした信念と強い意志を感じさせる何かが、男の白く細面の顔に確かに宿っていた。

 もう一度、あの男に捉えられてしまったら――きっと、今度は逃げることはできないだろう。

 そう考えるだけで美鈴の表情はこわばり、剥き出しの肩から首筋にかけてが何とも言えなくうすら寒く感じられる。

 男よりも遥かに体格がよく、多少強引なところがあるとはいえ常にさりげない気遣いを見せるリオネルとは対照的に、男の、何か思いつめたような瞳は美鈴の警戒心をかきたてた。