ちょうど中休みに入った舞踏会場には、きらめく金ボタンに濃灰色のお仕着せを着た屋敷の従僕たちが現れ、招待客たちのための軽い食事や飲み物を次々と運んでくる。

 リオネルは目の前に巡ってきた、すまし顔の年若い召使いに軽く合図し、クリーム色の液体が入ったカクテルグラスを二つ受け取り、一つの盃を美鈴に手渡した。

 軽く盃を掲げてから、そっと口をつけると、ひんやりと冷たいシロップの甘味がしみわたる。

 まろやかに甘い、シロップの余韻を楽しみながら、美鈴が視線を上げるとリオネルと目が合った。

 リオネルの明るいグリーンの瞳が優し気に細められ美鈴を見つめている。

 ふんわりとした艶のある黒髪の巻き毛、人目を惹く長身に男らしい精悍な顔立ちのリオネルは、窓際に立つ美鈴を舞踏会の喧騒(けんそう)から護るように彼女のすぐ傍に(たたず)んでいる。

 ……最初は、見つめられるたびに戸惑いを感じていたヘーゼルグリーンの瞳。

 一体、この数時間、いや、数日間の間に、変ってしまったのは自分なのか、それとも……。

 突如として心の中に湧き出た、不思議な感情の泉に翻弄(ほんろう)されながらも、辛うじて美鈴は微笑みを浮かべてリオネルに相対していた。

 ふと、美鈴が煌びやかな舞踏会場から窓辺に目を移すと、屋敷正面のバルコニーに面したその窓から、たった今、屋敷に到着したと見える馬車と乗客の姿が見えた。

 車寄せに降り立った貴婦人は、身体の線を際立たせるデザインの濃い紫色のドレスに身を包み、白絹のショールを(まと)っていた。

 そして、その傍らには貴婦人の手を取り、屋敷へ導く男性の姿――

 背を向けていた男性が侯爵夫人邸の正面玄関に向き直り、美鈴が何気なくその男性の顔を見た瞬間、舞踏会場のざわめきが急に遠く聞こえた気がした。

 細い顎に真っ白な肌、氷のような印象の横顔は、忘れもしないあの男。

 森の中で出会った、あの不気味な青年に間違いなかった。