美鈴の問いかけに対して、大げさに肩を(すく)めると、リオネルはわざとらしくホーッとため息を吐いた。

 大きな体をグイと傾け、美鈴の瞳を数秒、覗き込んでから彼女の耳元に唇を寄せて小声でそっと囁く。

「最初の円舞曲で、この舞踏会で一番、美しい令嬢と踊ってしまったものでね……。今夜は、これでもう十分だ」

 身体を起こしたリオネルは、これ見よがしに、ニンマリと甘い笑顔を美鈴に向けてくる。

「そ……そう。……それは」

 こうしたやり取りに慣れていない美鈴は、頬を赤らめて、そこで言葉を詰まらせた。

 ……こんな時、気の利いたやり取りができない自分が、我ながら情けない……。

 仕事でのやり取りなら、相手がどんな男性であろうが、臆することなく話すことができるのに……!

「恋愛」というフィルターがかかってしまうだけで、こんなにもぎこちなくなってしまう自分が、どうしようもなく歯がゆかった。

 黙ったままの美鈴を、微笑を頬に浮かべたまま眺めていたリオネルが、ゆっくりと彼女の前に跪き、小鳥を(てのひら)に乗せるようにそっと手を握った。

「何も、無理をしてこれ以上、踊ることもない。舞踏会の楽しみは、ダンスだけではないからな」

 オーケストラの音色、中でも弦楽器の一群による旋律がひときわ高く鳴り響いて消えた後、会場は楽隊への拍手に包まれた。

 舞踏会場をチラと振り返ってから、美鈴の手を取り、立ち上がるよう促すと、リオネルは彼女を伴って舞踏の間に向かって歩を進めた。