長い睫毛に縁どられた瞳を輝かせながら、アリアンヌは美鈴に向かってそう言った。

「ぜひ、一度私のサロンに遊びにきてくださいな。……あなたのこと、もっとよく知りたいわ」

「え、ええ……ありがとうございます。……機会があれば、ぜひ」
 外ならぬ公爵令嬢じきじきの誘いを無下にすることもできない。美鈴は何とか無難な回答でこの場を収めたいと思い、そう答えた。

「嬉しいわ……! きっとよ」

 文字通り、花が咲いたような笑顔を見せるアリアンヌを、美鈴は複雑な感情で見守った。

「では、わたくしは、これで……今夜は、どうぞ楽しんでらしてね」

 話を終えて椅子から立ち上がり、その場を去りかけたアリアンヌが、ふと、何か思い出したように美鈴を振りかえった。

「そうそう、パリスイに来て間もない、あなたにはお知らせしたほうがいいわね。……近頃、貴族の舞踏会、それも、大舞踏会に、貴族階級でない人物が紛れ込んでいることがあったらしいの」

 扇で口元を軽く隠しながら、アリアンヌは続けた。

「一目見れば、(わか)りそうなものだけれど。……なんでも、貴族階級の婦女子を篭絡(ろうらく)しようという魂胆(こんたん)で、動いている輩もいるという噂よ」

 眉を(ひそ)め、苦々し気にそう言い放ってから、扇を閉じてアリアンヌは軽く美鈴に会釈した。

「ダンスのパートナーには、どうぞ気をつけて……。また、お会いしましょうね。ミレイ様」

 そう言い残して、真紅のドレスを(ひるがえ)し、公爵令嬢は後姿も美しく舞踏会場へと去っていった。