さきほどからやや遠巻きに様子を眺めていた令嬢たちが、美鈴の傍を離れたリオネルに次々と話しかけているようだ。

「まあ、足を? ……先ほどはあんなに素敵に踊ってらっしゃったのに」

「それより、リオネル様がお連れになった、あのご令嬢はどなたですの?」

「じゃあ、今夜はもうダンスはなさらないのね……そんなぁ……」

 矢継ぎ早に質問を繰り出す令嬢たちを適当にあしらいながらリオネルが少しずつ遠ざかっていくのを、美鈴は背中に感じていた。

 彼のリードで初めての舞踏会でダンスを踊った。

 ……事実を端的に述べれば……たったそれだけのことだと、美鈴は思う。

 しかし、ついさきほどまでリオネルに握られていた手が、抱きとめられたときに触れた腕が、熱い呼吸を感じた肩が、彼が傍に居ない今も、熱をもってしまったように熱い。

 我先にとダンスのパートナーを申し出る紳士たちに応対しながらも、美鈴はつい、彼女を残して去っていったリオネルのことを気にかけてしまう。

 最初の円舞曲の後も、少しの休憩を挟んで、引き続き男女二人がペアになって踊るダンス、あるいは次々と相手を変えるグループダンスが、オーケストラの演奏を伴って繰り広げられていく。

 ダンスの申込をしてきた踊り手たちの相手が一通り終わると、美鈴がほっと息をついたのもほんの束の間。

 なるべく人目につかないよう舞踏会場の次の間の端にある椅子に腰かけようとしていた美鈴を、彼女も聞き覚えのある凛とした女性の声が呼び止めた。