リオネルのリードは完璧だった。

 ダンスのレッスンを務めていた教師よりも、彼は的確に美鈴の呼吸を読み、巧みなリードで彼女を導き、絶妙なタイミングでターンを促した。

 美鈴も、相手が変わっただけでレッスンの時とは段違いに、まるで羽根が生えたかのように軽やかに踊れることに驚きを感じていた。

 あくまで美鈴の動きに合わせて彼女が心地よく踊れるようにリードに徹するリオネルの真摯(しんし)な眼差しを受け止めながら、美鈴は心の中が温かいもので満たされていくのを感じていた。

 ひときわ鮮やかに美鈴のアンティークローズのドレスの裾が花開き、二人の距離が縮まればそれはリオネルの足に(まつ)わりついてすぼんだ。

 永遠に続いてゆくかに思われる時間の中で、ステップに合わせて幾度も開花を繰り返しながら、美鈴は気がつけば夢中になって踊っていた。

 自分を縛っていた様々な思い……常々感じていた異世界で生きていく心細さや、リオネルに対する反発、異性に対する羞恥心が一斉に解けてしまうほどに。

 ただただ心地よい円舞曲の調べに乗って、美鈴はリオネルのリードに身を預けて踊り続けた。