大きなリボンを肩口(かたぐち)にあしらい、(そで)と裾に繊細なレースをたっぷりと使ったドレスの腰は、美しい装飾を施した金具で留めた黒のリボン状のベルトで引き締められている。

 美鈴やほかの令嬢と同じく大きく肩から上を露出しているものの、上品な金の房状のイヤリングとデコルテを彩る同じデザインのネックレス、そしてなによりまなじりを決した勝気そうな青い瞳が、彼女に独特な気品と高貴さを与えていた。

 厳かな音を奏でる鍵盤(けんばん)楽器の独奏に合わせて、優雅な身のこなしで複雑なステップを踏み、指先が触れるだけの控えめでいて高度な技術が要求されるダンスを、アリアンヌは見事に踊りきった。

 二人が観客たちに会釈(えしゃく)する間、この美しく(たぐい)まれな踊り手に向けて広間を揺るがすような大きな拍手が送られた。

「……それじゃあ、今夜はアルノー伯爵が来られないから、あの方が急きょ「代役」を務めていらっしゃるのね」

「どおりでね……アリアンヌ様に比べて、あの落ち着きの無さと言ったら……!」

「アリアンヌ様もお気の毒にねえ。アルノー伯爵の代わりというには全く役者不足なのだから……」

 アリアンヌの舞踊に思わず見入っていた美鈴は、拍手の直後に始まった周囲の令嬢達の小鳥のようにかしましい会話によって現実に引き戻された。

 扇で表情を半ば隠しつつ、粉白粉や香水のかぐわしい香りを漂わせる年若い令嬢たちの噂話は一向に止む気配を見せない。

「……『急な病を得て』ということらしいけれど……、本当のところは……ねえ?」

「アリアンヌ様やヴィリエ家一門と表面上は仲良くされているようでいて……実は……とか?」