リオネルに伴われ舞踏の間の入り口に到着したその瞬間、まるで木漏れ日のように室内からこぼれる(まばゆ)い輝きに美鈴は思わず目を細めた。

 大広間の壁面のそこここにカットグラスのランプが光を放ち、部屋の中央にはしたたり落ちる(しずく)()したかのような(きら)めく水晶が幾重(いくえ)にも連なるひときわ大きなシャンデリアが、ホール全体へ蝋燭(ろうそく)の光を拡散させている。

 高い天井の広々としたホールには、招待客たちのざわめきや靴音がこだまし、舞踏会に臨む人々の熱気で満ち溢れていた。

 女性客の髪には色とりどりの生花やレースの髪飾り、熱帯魚の尾さながらにゆらゆらと揺れるドレスの(すそ)、男性客の胸元には様々なデザインのスカーフ状ネクタイの(ひだ)陰影(いんえい)をつくり、上等な布地のテールコートは室内に散らばる光を受けて(つや)やかな光を(たた)えている。

 集まった大勢の招待客が(かも)し出す独特の高揚(こうよう)した雰囲気に圧倒されながら、美鈴はリオネルの腕に回した手を離さぬように気を配りながら人混みをすり抜ける。

 客人たちが続々と集まりつつある最中、ホルンに似た菅が渦を巻いた金管楽器の高らかな音色が舞踏会の開始を告げた。

 その音を合図に、ホールの中ほどに向かって鮮やかな紅バラ色のドレスに身を包んだアリアンヌとダンスの相手役の青年が進み出る。

 招待客たちが踊る円舞曲(えんぶきょく)の前に、宮廷音楽の調べに乗って主催者側に選ばれた男女が儀礼的な舞を踊るのは、ここフランツ王国の名だたる貴族主宰の舞踏会、そして宮廷舞踏会での(なら)わしだった。

 相手役の男性がいくらか緊張した面持ちで招待客に向けて礼をする一方、アリアンヌは天使のように優美な微笑みを招待客たちに投げかけた。