美鈴の問いに、二人は目を見合わせた。

「トウキョウ……?」

「ええ、わたし、大手町の会社まで戻らないと……。最寄り駅はどこでしょうか?」

 心臓がどきどきする。
 だんだんハッキリしてきた頭で考えると、この屋敷で目覚めてからの出来事すべてに強烈な違和感を感じる。

 夫妻の、現代日本ではありえないような古風な装い。
 見るからに重厚で本格的な西洋建築とそれに相応しい高価そうな調度品。

 東京は、今、真冬だというのに、春先のような暖かい空気と、庭に咲き乱れる花々。

「駅というとオルセル鉄道駅のことかな?随分遠くから来たようだね」

 まったく聞きなれない単語に、胸の動悸がさらに高まったように感じられた。

「あの……おかしなことを聞くと思われるかもしれませんが……」

 夫妻の顔を交互に見つめてから、美鈴は先ほどから何度も心の中で繰り返した質問を口にした。

「ここは、いったいどこ……なのでしょうか?」

「……あなた」

 夫人の困惑した視線を受けて、軽く頷いた紳士は美鈴にゆっくりと言い聞かせるように説明した。

「ここは、フランツ王国の首都パリスイ。私はアラン・ド・ルクリュ子爵、これは妻のロズリーヌ」

「……きっと、随分遠いところから来られたのね。慣れない土地でお困りなのかしら」

 確かに、自分が今朝までいた場所「東京」に比べたらここは全くの「異国」だった。

 両手を胸の前で固く握りしめながら、美鈴は必死に事態を理解しようと努めた。