そんな疑問を胸に、ふと美鈴が隣に立つリオネルを見上げると、さきほどから黙って彼女の様子を観察していたらしい彼は、ジッと刺すような眼差しを美鈴に向けていた。

 困惑の表情を浮かべた美鈴の視線を受けて、リオネルは上半身を屈めて美鈴の顔を覗き込みながらゆっくりと囁いた。

「……ミレイ、君はあの栗色の髪の男、ジュリアンと会ったことがあるのか?」

 邸内のそこかしこにあるランプの淡い光を反射した瞳は、今は深く沈んだグリーンに見える。

 鋭い視線で射すくめられながらも、美鈴は彼の目から視線を外すことはできなかった。

「せ、先日、森で……会っただけ。……あなたが心配するようなことは何も、ないわ」

「……本当に?」

 なおも瞳の奥を覗き込むように見つめたまま、リオネルは美鈴にもう一度尋ねた。

「もちろん……わたしが嘘をつく必要なんてないでしょう?」

 美鈴はブールルージュ森の中での出来事の詳細について、この場はしらを切りとおすことに決めた。

 正直に話すことでリオネルを刺激するのを避けたいという思惑とともに、恐らく貴族階級ではないあの黒髪の青年とはもう会うことがないと考えてのことだった。