リオネルに促され、彼の腕に手を回し、豪奢(ごうしゃ)なシャンデリアの光に包まれながら、美鈴は夢の中にいるような不思議な感覚のまま、玄関ホールの奥へ向かって歩を進めた。
 
 そこから先は――邸内の至るところから注がれる招待客たちからの視線の洗礼――玄関ホールで談笑する紳士淑女の一瞥(いちべつ)、そして階上へ伸びる階段の上、バルコニーから降ってくる、数えきれないほどの視線……

 これまで経験したことのない、視線の嵐に(さら)されて、美鈴は無意識にリオネルの腕をつかむ手に力を込めた。

 美鈴の緊張が伝わったのか、リオネルは美鈴の前に回り身を屈めて彼女を軽く抱き寄せると、耳元でそっと囁いた。

「大丈夫、心配することは何もない。……君は、堂々と胸を張って歩いていけばいい」

 呪文のように美鈴にそう言い聞かせると、リオネルは軽く片目を閉じて彼女に笑いかけた。

「……さあ、参りましょう、ミレイ嬢」

 そう呼びかけると、裾長の舞踏会用ドレスを着た美鈴の歩調に合わせながら、リオネルは彼女を階上へ向かう幅広の階段の下に導いた。

 リオネルの声で我に返った美鈴は、周りの視線を気にしながらも、リオネルと共に一歩一歩、シャンデリアの灯りで艶々と輝く石段を踏みしめて上っていく。

 階段を上り切った先、第一の広間は、次の間に控えている侯爵夫人に挨拶をしようと待ち構えている招待客で溢れかえっていた。

 その中に――偶然にも見知った顔を見つけて、思わず上げそうになった声を、美鈴は何とか飲み込んだ。
 
 忘れもしない、ブールルージュの森の中での出来事……黒髪の不気味な男から彼女を救ってくれた、栗色の髪、琥珀色(アンバー)の瞳のあの青年の姿がそこにあった。