そっと目を開いた美鈴は、思わず化粧台の鏡の中の自分の姿をまじまじと見つめてしまった。

さきほどジャネットが香油をなじませて丁寧に結い上げた艶やかな髪が、今夜の夜会服の色に合わせた、花の中央が濃いローズピンクに染まった瑞々しいバラを中心に可憐な白い小花を散らした髪飾りで彩られていた。

リオネルはその仕上がりに満足そうに胸を張ると、美鈴に手鏡を差し出した。

リオネルの指示にしたがって鏡台に背を向けて手鏡の中をみると、後髪も同じように美しい生花で飾られているのがわかる。

「リオネル……わたし……何ていったらいいか……」

驚きと、感動でほとんど言葉を失いかけている美鈴に得意げに微笑みかけると、リオネルは美鈴の手からそっと手鏡を取り上げ、鏡台の上に戻すと、彼女の手を大きな両手で包み込んだ。

「……何も、言わなくていい。俺が好きでやっていることだからな。それに」

美鈴の手を包んでいた左手を離し、上半身を折って美鈴の手の甲に軽くキスを落としながら、リオネルは言った。

「前にも言っただろう……? 君は、間違いなく社交界の華になれる。君をエスコートできる、俺は、パリスイ一の果報者だと思っている」

ルクリュ家の車寄せには既に夜会に向かうための箱馬車が待機している。

一生に一度のデビュタント、美鈴にとって初めての舞踏会の夜は、今、まさに始まろうとしていた。