その何かが彼女の心を揺さぶり、未だ言葉にすることができない感情を呼び覚ましかけていることは、本人も自覚しているところではあったのだが……。

……どうしたらいいのか……、解らない。

白い浴槽の中でゆらゆらと揺れる青い水面を眺めながら、美鈴は心の底から当惑していた。

人はこの感情を恋愛と結びつけるかもしれない、でも自分の場合は……まともに恋などしてきたことがない美鈴には、この気持ちを何と呼べばよいのか、見当もつかなかった。

ジャネットに手伝ってもらいながら全身を香りのよい石鹸で洗い終わると、ゆっくりと浴槽から立ち上がりながら美鈴は軽くため息をついた。

勉強に、仕事に、常に自ら目標を設定してそれに打ち込んでいるフリをしながら、その実、見ないよう、感じないようにしてきたこと……逃げてきたこと。

それらに、今、向き合わないといけない……この異世界に自分がやってきた理由は、そこにこそあるのだろうか……。

この世界――フランツ王国 パリスイで過ごした2か月間、美鈴が見聞きしてきた限りでは――少なくとも美鈴が今まで出会ったこの国の人々は自分の心に正直に、喜びや悲しみを表現し、それを愛する人と分かち合って生きているように思える。

ひたすら自分の感情を押し隠し、何重もの鎧を心にまとって生きてきた自分とは全く違う……。

……これは運命なのだろうか? だとしたら、なぜ……。

「そんな顔! なさらないでください。ミレイ様」