「数日前、リオネル様がおっしゃられた通りになりましたね。……この分なら、今晩、雨の心配はなさそうですわ」

あの日、ルクリュ子爵夫人、リオネルと三人でテーブルを囲んでいた時、給仕をしてくれたのはジャネットだった。

当然、あの時のリオネルのきざなセリフ……『自分がとびきり美しい女性をエスコートする日は、いつも必ず晴れる』と彼が自信満々に言い放ったのを、ジャネットも聞いていたらしい。

ブールルージュの森を訪れたあの日以来、美鈴はまだリオネルと直接顔を合わせていないのだが、昨日の夕方、彼から舞踏会用の新しい靴が届けられた。

美鈴の足の状態を気遣って急いで誂えたのであろうその靴は、内側にも上質の革を使った、履き心地がよい上等な品だった。

「……そうね。」

そっけない反応の美鈴を、ジャネットは入浴の支度をしながら、興味深そうに横目で観察しているようだった。

「……リオネル様は、子供の頃からどこか飄々として……個性的な方ではありますが」

美鈴が丈の長いネグリジェを脱ぐのを手伝いながら、ジャネットは静かな声で美鈴に語りかけた。

「とても、お優しい方です。ご自分が特別な好意を抱いている方々には……想いを隠すことなく尽くそうする。とても純粋な方だと私は思っています」

美鈴の反応を窺いながら、やや遠慮がちに、ジャネットは独り言のようにそっと呟いた。

ジャネットの言葉を受けて、先日ブールルージュの森で再会した時のリオネルの表情――彼の温かい胸に抱かれた感覚がまざまざとよみがえってくるのを美鈴は感じた。

「……そうね、私も……そう、思うわ」

ごく控えめな反応を見せる美鈴を、ジャネットは湯あみの後に身体を拭くためのタオルを広げながら、澄んだ栗色の瞳を見開いて不思議そうに眺めていた。

あの日、ブールルージュの森での出来事が美鈴の中の「何か」を動かした。