開け放した窓の外から聞こえてくる、空高く響く鐘の音で美鈴は再び目を覚ました。

太陽はすっかり昇りきり、正午を少し過ぎた眩しい初夏の日差しが窓から差し込んでいる。

ベッドでゆっくりと身体を伸ばして(くつろ)いでいると、ドアを軽くノックする音と「お嬢様」と呼びかける女性の声が聞こえてきた。

ルクリュ子爵邸に起居(ききょ)することになってから、ずっと美鈴の身の回りの世話をしてくれている侍女のジャネットだ。

「起きてるわ、ジャネット。いい天気ね」

美鈴の返事を受けて、すらりと背の高い女性――ジャネットが扉を開け室内に入り、美鈴に軽く会釈した。

「本当に。今日はまた、良く晴れましたねえ……」

開きっぱなしだった窓を閉め、レースのカーテンを引いてから振り向いたジャネットは、ベッドの上で半身を起こした美鈴に明るい笑顔をみせた。

ルクリュ子爵夫妻の娘、ミレーヌがまだ存命だった頃、彼女付きの召使いとして雇われた彼女は30代半ばを過ぎている。

昔から仕事の手際がよく、人の気持ちを察することに長けていた彼女は、今では熟練者としてこの屋敷に雇われている侍女達を統括する立場にあった。

やや赤みがかった金髪をキッチリと結い上げて、テンポの速いダンスのステップを踏むように、ジャネットは無駄のない動きでテキパキと仕事をこなしていく。

子供の頃を除いて、誰かに身支度を手伝ってもらうことなどなかった美鈴は、最初この慣習に大いにとまどったものだったが、今では、しっかり者で気立てのよいジャネットと打ち解けた会話ができるようになっていた。